AIの活用方法を知る

AIの基礎的な知識からビジネスにおけるAI活用事例まで
AIのプロジェクトを始める際に役立つ情報をお届けします。

産業分野へのAI活用事例

近年、日本社会では製造、医療、建設、物流、小売、金融、農業などさまざまな業界で、少子高齢化に伴う人手不足が深刻化しています。一方で、労働環境の改善など働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)といった、未来志向の改革も不可欠です。さまざまな業界において、これらの現状を打破するためにAI活用が進められています。

ここではさまざまな産業別にAI活用事例を紹介します。たとえば、製造業界では生産計画や要員計画の最適化、建設業界では建設現場の安全管理、物流業界では不在配送問題の解決などさまざまな場面でAIは活用されており、売上向上やコスト削減など大きなメリットが得られます。

製造 × AI

現在、製造業界は少子高齢化に伴う人手不足や技術継承の困難さなど、さまざまな問題を抱えています。AIを活用することで、安全性や品質を確保しながら、業務効率化やコスト削減を目指す取り組みが進められています。

大手食品メーカーは、AIを活用して最適な生産計画および要員計画を立案するシステムを食品工場に導入しています。熟練が立案する複雑な制約条件を考慮した計画を再現し、これまでの当該業務時間を従来の10分の1程度に短縮しました。熟練者以外の従業員が生産計画・要員配置を作成できるため、労働時間の低減や休暇取得の向上など働き方改革への貢献が期待されます。

また、北アメリカの大手製造会社はAIを導入し、製造オーダーや製品構成、部品表、再注文パラメーターの履歴などのデータなどを学習させることで、在庫数を最適化できるアルゴリズムを構築しました。同社は以前から、40億ドルに相当する莫大な量の在庫を保有しており、在庫を最適化すればコストを大幅に抑えられると考えていました。実際に在庫数を最適化することで、在庫の抱え込みコストを28〜52%削減し、年間で1〜2億ドルのコスト削減に成功しました。

そのほか、組み付け部品の検査業務や品質管理業務を自動化したり、立ち入り禁止エリアへの進入禁止など安全管理を効率化したり、ニュースから各種素材の価格を予測したりといった場面でもAI活用が進んでいます。

医療 × AI

現在、医療業界は少子高齢化に伴う医療従事者の人員不足、都市と地方との医療格差などの問題が深刻化しているなか、労働環境の改善など働き方改革が求められています。AIを活用することで、労働時間の削減、コスト削減、ヒューマンエラーによる医療ミスの防止などの効果が期待されています。

日本のAIスタートアップ企業は、約5~10分の会話だけで患者が認知症かどうかを判定できるAIシステムを開発しています。言語系のAI技術を活用し、これまで認知症診療の経験のある医師でなければ難しいとされていた認知症の神経心理学的検査(MMSEなど)をごく自然な日常会話から実現します。本AIシステムが医療機器として承認されれば、認知症の早期発見はもちろん、認知症検査の標準化、患者と医療従事者双方の身体的・心理的負担の軽減などのメリットが得られます。

また、日本のヘルステックを手がけるスタートアップ企業は、紙の問診票の代わりになるタブレットを活用した問診サービスを提供しています。患者はAIが個別化した質問に回答することで、診察前の待ち時間を活用し、詳しい症状を伝えられます。医師は専門的な文章に翻訳した問診内容と病名辞書を使用することで、電子カルテ記載をはじめ事務作業を大幅に削減できます。外来問診にかかる時間を約3分1に減らす効果も出ています。

そのほか、最先端の医療現場ではAIを活用することで、再入院のリスクの高い患者、インフルエンザの流行度合い、試験薬の効能や副作用などを予測する取り組みが進められています。さらに、診療報酬明細書の作成など事務作業を効率化したり、膨大なデータの中から患者に有効な治療薬の候補を見つけたり、予約システムによりキャンセルを是正したり、がん検査の精度を向上したりといった場面でもAIが活用されています。

建設 × AI

建設業界では、少子高齢化に伴い人手不足が深刻化すると考えられており、AI活用による業務効率化が求められています。また、建設現場では、工事の進行に合わせて構造物ができるだけではなく、建設機械の移動や吊り荷の運搬、作業員の動線変更などで頻繁に変化が生じます。その影響もあり、建設機械やクレーンとの接触事故、墜落・転落事故、倒壊・崩壊事故が発生する可能性が高く、安全性の向上に向けた予防対策が不可欠です。

建築支援サービスなどを手がける日本のスタートアップ企業は、AIと建設技術者のオペレーターを組み合わせることで、写真や図面、書類などのデータをアップロードすると、建設業界が普段手がける業務を同社が代行してくれるサービスを提供しています。本サービスは蓄積データをAIに学習させることで、利用企業専用のAIを構築し、スピードと精度が向上していきます。利用企業からは書類50枚のデータ化の作業時間を1000分削減できたなどの声が寄せられています。

また、日本の大手製造会社は、頻繁に変化する建設現場の危険な立入禁止エリアをAIでリアルタイムに監視し、作業員の安全性向上を図るサービスを提供しています。複数のカメラ画像やセンサー装置を活用することで、頻繁に変化する現場の状況に対応し、立入禁止エリアへの人の立ち入りなどの検知・識別を実現します。

そのほか、建設現場にAIを搭載した自律型ロボットを導入したり、避難等に活用するために局所地域での風速を予測したり、工程管理に活用したりする動きもあります。日本では1960〜1970年代の高度経済成長期に建設されたインフラの老朽化が進んでおり、メンテナンスの高度化・効率化が必要なため、画像データからコンクリートのひび割れなどを自動で高い精度で検出する取り組みは活用される機会が増えていくと考えられます。

物流 × AI

近年、流通業界はEC市場が拡大しているにもかかわらず、労働力不足により作業者の確保が難しい状況です。高騰している人件費や運送費の削減、業務効率化に伴う働き方改革、過剰在庫の解消、ヒューマンエラーへの対策、運送中の居眠り運転や危険運転の危険性の検知による事故防止などを目指し、さまざまな場面でAIが活用され始めています。

配達事業を手がける大手日本企業らは、神奈川県の横須賀市で150世帯の協力を得て、不在配送問題の解決を目指す実証実験を実施しました。本実証実験では電力データを活用した在宅判定アルゴリズムで在宅予測・判定し、不在率の約20%減少に成功しました。地域の担当ドライバー、代走ドライバー、新人ドライバーなど、さまざまなドライバーで配送したが、不在率の削減効果はドライバー間での差は見られず、どのようなドライバーでも同様の結果を出せます。

AIを活用することで、ルート配送を最適化する取り組みも進んでいます。日本の大手製造メーカーは実証実験において、配送先と順番や車両への荷物積載の内訳など配送計画に基づき、車両13台の配送総走行距離が熟練の人間が策定した配送計画と比べ、1日あたり約300kmの削減に成功しました。燃料代は年間約360万円、CO2排出量は年間約440kg削減できると試算しています。アルゴリズムが策定した計画どおり配送しても、走行上の問題がないことも確認しています。

そのほか、倉庫内分析により要員計画やレイアウトを最適化したり、受注業務や検品業務、荷物仕分けを自動化したり、AIによる映像解析技術を搭載したドライブレコーダーを導入したりする事例も増えつつあります。

小売 × AI

今後、小売業界では少子高齢化に伴い労働力不足が深刻化すると考えられています。労働力不足の解消や働き方改革の解消はもちろん、コスト削減、担当者の経験や勘に頼っていた業務の再現性向上、食品ロスの解消、顧客の利便性や満足度向上などを目指し、AIの導入が進められています。

日本の大手スーパーを運営する企業は、AI需要予測による自動発注システムを導入しました。本システムは販売実績・気象情報・企画情報などの各種データをもとに、小売店舗における日々の商品発注数を自動算出します。 販売期間が短く精度面で対応が困難だった牛乳などの日配品でも発注の自動化を実現しており、すでに現在240店舗以上で稼働し、日配品発注業務を年間15万時間削減できることを確認しています。

さらに、大手百貨店の店舗では、AIを活用した来店顧客の属性や行動データの収集・分析を目的とした実証事業を実施しました。実証事業では解析・収集したデータと保有するデータを組み合わせ、来店顧客の属性や時間帯などさまざまな観点から統計的に分析し、新規テナント誘致や新サービス開発など活用可能性を探ります。

そのほか、小売業界では店舗でのシフト作成を自動化したり、コールセンターへの問い合わせをチャットボットに置き換えたり、クーポンの配布に最適な顧客を判断させたりする取り組みが進んでいます。また、すでに中国では顔認証による決済が普及しており、日本でもコンビニなどの小売店舗や飲食店などが実証実験を実施しています。

金融 × AI

近年、金融業界では働き方改革はもちろん、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語「FinTech(フィンテック)」やDX(デジタルトランスフォーメーション)など技術革新が求められており、AI活用が進められています。

地方都市の地方銀行では、業務負荷の軽減や生産性の向上などを目的に、法人融資における審査業務にAIを活用する実証実験を実施しました。実証実験では決裁書記載の財務データに加え、銀行口座の入出金履歴データを取り込んだスコアリングモデルを構築し、デフォルト確率予測ツールとして活用することで、判断の精度を向上すると共に、業務スピードを大幅に改善しています。

また、アメリカのクレジットカード発行会社は、AIをクレジットカードの不正利用を目的とした詐欺集団の検知システムに導入しました。過去の登録情報や近似データのパターンをAIに学習させることで、今まで発見できなかった悪徳な顧客や大規模な詐欺グループの登録情報などを発見できるようになりました。検知精度は94%を発揮し、不正行為の発見数が25%に増加しました。本AIにより防止できた被害額は約1500万ドルにおよびます。

そのほか、金融業界では顧客による将来の投資やローンの返済リスクを可視化したり、返済を延滞する可能性がある人を予測したり、不正取引や詐欺行為の監視を強化したり、パンフレットなど広告制作物の校閲・校正業務を自動化したりといった取り組みでもAIが活用されています。

農業 × AI

近年、新規参入が難しいとされる農業業界は農家の高齢化および後継者不足、技術継承の困難さ、食料自給率の低下など、さまざまな問題を抱えています。これらの問題を解決するために、AIの導入が進められています。

アスパラガスの生産・販売を手がける日本企業は、アスパラガス自動収穫ロボットを活用することで、収穫作業を自動化しました。屋外での野菜の認識は天候や日照条件によっては困難なため、画像認識や赤外線センサーなど、いくつかの技術を組み合わせて位置やサイズを認識しています。しゃがんで実施する収穫作業による身体的負担を軽減し、約5割の作業工数を削減できました。

北海道の十勝地域では、生産者がスマホで撮影した画像データをもとにしたAI学習モデルにより、病害虫を判別できるシステムを採用しました。甜菜に発生する褐斑病(かっぱんびょう)およびヨトウムシの特定を実現し、作業負荷の軽減および農薬などのコスト削減に成功しました。十勝全域での効果的な農薬散布が期待できます。

そのほか、AIとドローンを活用することで巡回作業と品質管理業務を効率化したり、農作物を自動選果したり、病害虫の病兆等を早期に発見したり、ビッグデータ解析に基づき最適な栽培管理を実現したりといった取り組みも実施されています。

NEXTあなたのビジネス × AI